読み切りデュエマ小説:放浪龍団、森を往く

 

 龍たちと心を通わせ放浪する青年は、傭われ賞金稼ぎとして旅費を稼いでいる。
森の奥深くに不穏な鳴動があり、その調査と、危険であれば駆除すること。
今回の内容はこれだ。
 確認を済ませ、件の森を間近にした。
天啓、あるいは闘士としての勘か、
言い知れぬ危険を察知し、手伝いとして共にする妖精へと声をかけた。

 モルトの闘志を平らげ火の子妖精が舞うと、
辺りに阻む物のない通り道が広がってゆく。
「いつもありがとうな」
妖精たちはか細く短い声をあげる。
それは挨拶であり、報告でもある。
遠く見えた建物の軒、赤子をあやす少女と妖精の姿がある、と。

 途端モルトの顔が強張り、それを見てか一つの影が飛びこんだ。
「竜鬼と呼ばれたこの御剣、赤子とて容赦はせぬ」
彼は龍としては小柄だが、潜在的な危険をいち早く察知し除くことは誰よりも得意としている。
それは今回も、周囲に理解されずとも変わらなかった。
少女は悲しみ、あるいは怒りに任せ手を振り上げるが、
すでに手の届かぬ場所を確保している。この手際も竜鬼の得意分野だ。

 だからこそ目の前で見る。
動かぬはずの森が一部を蠢かせ、姿を作り、少女の肩にそっと手を置く。
「荒事は任せ、娘は逃げよ」
少女は小さく頷くと森の奥深くへと駆け、
追手を阻むように新たな木が急激に生える。
その連なる驚愕に戸惑う間も無く、胴体を並べたような剛腕に身の丈ほどの武器を持った精も現れ、立ちはだかった。

 予兆。
モルトの得意とするところだ。
直接は見ずとも最大のチャンスと直感し、地を蹴りながら、叫ぶ。
「来い、ハートバーン!」
モルトが駆ける、その姿その声へ応えるように移動要塞が咆哮する。
熱気だけで森の一部を、そして名も知らぬ小さな妖精ごと焼け焦がす。

 一閃、そして呼ばれるように要塞の咆哮は強く激しく昂り、
内に秘めたる覇龍と表し、モルトに続く。
地盤をも揺るがす衝撃、やがて地は大口を開け、
この地中に抱えたものを露わにした。
「この遺跡は!」
モルトの旦那!」
遅い。遺跡の罠は逃さずモルトを引きずり込み、
覇龍もその身を守らんと、要塞と戻る他に術はない。

 罠の続きか衝撃への返事か、遺跡が咆哮し、
そして呼ばれるように森も怪しく妖しく蠢く。
木の枝の、葉の一つまで、妖精の力としても異常な速度で成長する。
いつの間にか森に囲まれている。森が襲いかかる。
黙って眺めてはいない、溶岩龍が付近を一掃し、モルトに続く。
しかし森の最奥には届かず、足跡たるマグマの道は大岩で塞がれていた。

 蠢き続ける森に迫られ、諦めかけていた、その時だ。
木々のさらに上、跳び上がるモルトの姿があった。
遺跡の罠からどうやって脱出したのか、今際の幻ではなく本人なのか、
その疑問も熱い闘気の前には無意味か、最奥への一閃。
姿も見えぬ何者かが一度は弾くが、同時に覇龍も解放され咆哮する。

 もはや蠢く音も動物の鳴き声もなく、森には静かな風の音だけが残った。
一番に駆け寄り、手を取る少女。
モルトは彼女に心配をかけたと謝り、最奥の宝石が源だった、とだけ伝える。
これは本当なのか、気を使ったのか、どうであれ生きて帰っただけで充分だった。

 覇龍は静かに二人を見守り、移動要塞と戻り帰路を走る。
次の機会にも、同じ心境で帰れるように。